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東京地方裁判所 昭和61年(ワ)8116号 判決 1988年3月24日

原告 日研産業株式会社

右代表者代表取締役 宇田川純

右訴訟代理人弁護士 増澤照久

被告 株式会社日本包装リース

右代表者代表取締役 大森昌三

右訴訟代理人弁護士 上野隆司

右同 高山満

右同 田中博文

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、請求の趣旨

1. 被告は、原告に対し、金六二〇万円及びこれに対する昭和六一年七月六日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2. 訴訟費用は被告の負担とする。

3. 第1項に限り仮執行宣言

二、請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二、当事者の主張

一、請求原因

1. 原告は包装機械等の販売を業とし、被告はリース業を営むものである。

2. 原告は、被告に対し、昭和六〇年九月四日、蜂蜜自動充填機一台を次のとおり販売した。(以下、「本件売買」という。)

物件 目黒薬品機械株式会社製蜂蜜自動充填機一台(以下、「本件機械」という。)

受渡の場所 訴外株式会社トーセイ(以下、「訴外トーセイ」という。)工場内

受渡の方法 納入検収渡し

代金 金六二〇万円

代金の支払方法 検収集金締 当月末日起算 約束手形 二ケ月サイト

3. 原告は、昭和六〇年一二月二七日、本件機械を前記指定場所に納品して引き渡した。

4. よって、原告は、被告に対し、本件売買代金六二〇万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和六一年七月六日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、請求原因に対する認否

1. 請求原因1の事実は認める。

ただし、本件売買は、被告が訴外トーセイとの間で昭和六〇年九月四日本件機械について締結したリース契約(いわゆるファイナンスリース契約。以下、「本件リース契約」という。)に基づきなされたもので、本件リース契約を前提とする後記特約が存するものである。

2. 同2の事実は認める。

3. 同3の事実は不知。

三、抗弁

(本件売買契約の解除)

1. 本件売買契約には、本件リース契約を前提とする次の特約が存した。

(一) 本件機械の品名、仕様、規格等は、すべて原告と訴外トーセイとの間の取決めによる。

(二) 本件機械の所有権は訴外トーセイの検収の完了をもって被告に移転するものとし、その後被告は原告に対し売買代金を支払う。

(三) 本件機械の所有権が被告に移転する前に、本件リース契約が解除された場合は被告は注文を取り消すという方法によって、本件売買契約を解除することができる。

(四) 右(三)により本件売買契約が解除された結果、原告に損害が生じた場合は訴外トーセイがその責めを負い、被告は何らの責めを負わない。

2. 被告は訴外トーセイに対し、再三、検収を証する物件借受書(検収書)の交付と初回リース料の支払を請求したが、訴外トーセイはこれに応じなかった。

3. このような経緯の中で、訴外トーセイは昭和六一年三月三一日不渡手形を出すに至ったので、被告は訴外トーセイに対し、昭和六一年五月一四日付書面をもって本件リース契約を解除した。

4.(一) 被告は原告に対し、昭和六一年五月一四日付書面をもって、本件リース契約を解除したので、本件売買契約も解除するから、本件機械を早急に引き上げるように通知した。

(二) 仮に、右(一)の解除が認められないとしても、昭和六一年八月二八日、同日付答弁書をもって本件売買契約を解除した。

四、抗弁に対する認否

1. 抗弁1の事実は認める。

ただし、「検収」とは、売主の本旨給付完了事実確認報告であり、訴外トーセイの第一回リース料支払までを含むものではない。したがって、被告の受領補助者である訴外トーセイが被告に対し任意に検収書を交付しなくとも、被告が右給付を確認後、訴外トーセイに対し第一回のリース料の支払を求めた時点で、「検収」は完了したというべきである。

2. 同2の事実は認める。

3. 同3の事実は認める。

4. 同4(一)、(二)の事実は認めるが、解除の効力については争う。

五、再抗弁

(検収の完了)

「検収」の意義については前記四1のとおり解すべきところ、次のとおり検収は完了している。

1. 昭和六〇年一二月二六日頃、訴外トーセイの植木正社長他一名立会いのもと、本件機械のメーカーである訴外目黒薬品機械株式会社(以下、「訴外目黒薬品」という。)工場内において試運転をし、機械が正常に動くことを確認した。

2. 原告は、翌二七日、指定納入場所である訴外トーセイ工場内に本件機械を納入設置した。

六、再抗弁に対する認否

再抗弁事実は不知。

ところで、リース取引においては、リース会社は実際の売買の内容の決定に関与しないため、デイーラーが本旨に従った物件を搬入し、かつ、搬入後本旨に従った状態に調整するなどして検収及び引渡しを完了したか否かを確認するために、ユーザーに対し検収の完了を証する物件借受書(検収書)の交付を義務付け、借受書の交付をもってリース契約がスタートするものとしている。このようにリース会社にとっては、借受書の交付を受けることが、ユーザーが売主から本旨給付を受けたか否かを確認する唯一の方法であるといってよい。本件リース契約書第五条二項には、訴外トーセイが被告に借受書を交付した時をもって、本件機械の引渡しが完了したこととなり、本件機械の所有権を被告が取得するものとすることが明記されている。本件売買契約が本件リース契約を前提とする以上、前記特約についても本件リース契約の特約と整合的に解する必要があり、「検収の完了」とは、訴外トーセイの被告に対する借受書の交付を意味するものと解すべきである。訴外トーセイから借受書の交付がなかったことは前記のとおりである。借受書の交付を無視して検収完了ありとする原告の主張は、リース取引においては失当である。また、借受書の交付がされなかったことからすると、原告の主張する意味においても訴外トーセイの納得する検収がなされなかったものと言わざるを得ない。

第三、証拠<省略>

理由

一、請求原因1、2の事実は、当事者間に争いがない。また、原告本人尋問の結果により成立の認められる甲第二号証、原告本人尋問の結果によれば、請求原因3の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

二、被告は本件売買契約をその主張にかかる特約に基づき解除したと主張し、原告は解除の効力を争うので、この点について判断する。

1. 抗弁1ないし3、同4(一)の各事実は、当事者間に争いがない。

2. 右のとおり抗弁事実には当事者間に争いがないが、本件売買契約の特約における「検収」の意義につき争いがあるので、この点につき検討する。

成立に争いのない甲第一号証、乙第五号証、原本の存在及びその成立に争いのない乙第六号証、証人長山滋の証言により成立の認められる乙第一、第二、第七号証(第七号証については、原本の存在についても)、証人長山の証言、原告本人尋問の結果(ただし、後記措信しない部分を除く。)に、前記当事者間に争いがない事実を総合すると、次の事実が認められ、原告本人尋問の結果のうち右認定に反する部分は前掲各証拠に照らし措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(一)  昭和六〇年六月頃、訴外トーセイから原告に対し、蜂蜜自動充填機を購入したいとの話があり、同年七月二六日には原告は本件機械の見積りを出したが、訴外トーセイからリースの形をとりたいとの希望があったことから、訴外目黒薬品から紹介を受けた被告と原告及び訴外トーセイの三者間でいわゆるリース取引をすることとした。原告代表者訴外宇田川純は、被告会社に赴き、訴外トーセイとの本件機械の取引に至る経緯を説明し、リース契約の申込書類を受け取り、これを訴外トーセイに持参し、その後、訴外トーセイから申込書を預かり被告に届ける等被告と訴外トーセイ間の本件リース契約締結の交渉に当たった。この間、被告は、原告及び訴外トーセイに対し、リース契約に関する一件書類を交付し、随時担当者が原告及び訴外トーセイの代表者にファイナンスリース取引の概要、手順等について説明した。

(二)  右三者間のリース取引においては、被告が原告から本件機械を買い取り、被告が訴外トーセイに対し賃貸(リース)する契約形式をとったが、本件売買契約締結の際に作成された注文書(甲第一号証)には、本件リース契約の名称、契約番号が明示されたうえ、さらに、次の特約事項が明示されていた。

(1)  本件機械の品名、仕様、規格等は、すべて原告と訴外トーセイとの間の取決めによる。

(2)  本件機械の所有権は、訴外トーセイの検収の完了をもって被告に移転するものとし、被告は代金を「検収集金締 当月末日起算 約束手形二ケ月サイト」との支払方法により支払う。

(3)  本件機械の所有権が被告に移転する前に本件リース契約が解除された場合は、被告はこの注文を取り消すことができる。注文が取り消された結果、原告に損害が生じた場合は、訴外トーセイがその責めを負い、被告は何らの責めを負わない。

(三)  本件リース契約においては、本件機械の引渡し等につき、次の特約がなされていた。

(1)  本件機械の引渡しは、被告の代理人が行なうことがあり、引渡しのときに、訴外トーセイはリース物件借受書を被告に交付する。訴外トーセイが被告に借受書を交付したときをもって、本件機械の引渡しが完了したものとする。(第五条)

(2)  本件機械の所有権は、リース期間中及びその後を通じて被告に帰属する。(第一一条一項)

(3)  リース期間は、訴外トーセイが被告に借受書を交付した日から起算する。(第二条)

右事実に照らすと、本件売買契約の特約における「検収」、換言すれば、本件売買契約が本件リース契約の解除と連動した形で解除(なお、前記注文書の特約事項には「取消」との文言があるが、右特約は約定解除条項であると解するのが相当である。)しうる期限を画するものとしての「検収の完了」とは、訴外トーセイが本件機械の引渡しを受け、その機能等を確認した上で、被告に対し借受書を交付したことをいうと解するのが相当である。

すなわち、本件売買契約は、いわゆるファイナンスリース契約である本件リース契約を前提として締結された。ファイナンスリース取引は、リース会社がデイーラーから物件を購入し、これをユーザーに賃貸するという法形式をとりつつ、その経済的実質はデイーラーからユーザーに対する売買取引及びリース会社のユーザーに対する与信取引であり、取引物件の仕様等の取決め、物件の引渡し及びその機能、性能等の確認等は、すべてデイーラーとユーザーとの間でなされるという関係にあり、基本的にはリース会社はこれに関与しない。そのため、ファイナンスリース取引においては、契約履行開始時におけるトラブルを回避するため、ユーザーが物件の引渡しとその機能等を確認したうえ、借受書(検収書)をリース会社に交付して、はじめてリース期間が起算され、ユーザーはリース料の支払を開始し、物件の所有権はリース会社に移転し、他方リース会社はデイーラーに物件の代金を支払うという仕組みをとるのが通例である。前記認定のとおり、本件リース契約及び本件売買契約においても右趣旨の特約条項が定められており、各履行開始時には連動して前記契約上の効力が発生するものであるから、本件売買契約の前記特約条項における「検収の完了」に伴う所有権の移転時期と、本件リース契約における借受書の交付に伴う所有権移転時期と別異に解すべきではないことからすれば、前記「検収の完了」とは、訴外トーセイから被告に対する借受書の交付のあったことをいうと解するのが相当である。(なお、前記の本件売買契約締結に至る経緯からすると、原告は右「検収の完了」の意義について了解していたものと認められる。)

3. 訴外トーセイから被告へ借受書が交付されていないことは前記認定のとおりであり、原告の主張する再抗弁事実をもって本件売買契約に定める検収があったということができないことは、前示のとおりである。

4. そうすると、本件リース契約は、本件機械の検収が完了して被告に所有権が移転する前に解除され、これに伴い、本件売買契約は、被告主張のとおり解除されたものである。

三、よって、原告の本件請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 小池裕)

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